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東京高等裁判所 昭和63年(行コ)73号 判決 1990年1月30日

神奈川県鎌倉市腰越一丁目一一番一二号

控訴人

中野好之

右訴訟代理人弁護士

河原崎弘

同県同市由比ガ浜四丁目六番四五号

被控訴人

鎌倉税務署長

近藤恒夫

右指定代理人

三代川俊一郎

小野雅也

田中偉嘉

石田猛

上賢清

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が昭和六〇年六月二九日付けで控訴人の昭和五九年所得税についてした更正処分のうち分離長期譲渡所得金八六六七万九二六三円、納付すべき税額金一九八八万五八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第二当事者双方の主張

次のとおり付加するほかは、原判決事情摘示(ただし、原判決九枚目裏六行目の「全額」を「税額」と改める。)と同一であるから、これを引用する。

一  控訴人の主張

1  控訴人から仙台市に対する本件土地の譲渡は、租税特別措置法(以下「措置法」という。)三三条の四に定める特別控除の特例(以下「本件特例」という。)が適用されるべき場合、すなわち、

(一) 土地収用法三章の規定による事業認定を受けた事業の用に供するため買取られた場合(措置法三三条一項二号、規則一四条七項二号)

(二) 都市公園法による都市公園に供するため買取られた場合(措置法三三条一項二号、規則一四条七項三号)

(三) 都市計画事業の認可を受けておこなわれる公園、緑地の設置(都市計画法四条五項、一一条一項二号)、教育文化施設などの設置(同法四条五項、一一条一項五号)のため

のいずれかに該当するものである。

2  仙台市は、昭和四四年以後、所有者である控訴人らに無断で本件土地を占拠し続け、控訴人が本件土地の明渡請求訴訟を提起した結果昭和五七年末に至つて、これを買取る旨の意思を表明し、本件和解が成立したのである。そして、この和解に際しては、本件譲渡に措置法の課税の特例が適用されることが前提とされ、仙台市は控訴人に対し、これに必要な書類を交付することを約束していた。

3  ところが、仙台市は、控訴人との間の永年の紛争で控訴人に深い恨みを抱き、加えて、当初四〇〇〇万円で本件土地を買取る計画であつたのに、わずか一年の後に二億八〇〇〇万円余で買い取らざるを得なくなつたことから、報復を画策し、租税の増収を計ろうとする仙台中税務署係官と共謀のうえ、あたかも右特例の適用に必要な証明書を交付するように対応しながら、全く別の書類を控訴人に交付し、右特例の適用を受けることを妨げた。

4  したがつて、控訴人が所得税の申告に当たり、特例の適用に必要な書類を添付しなかつたとしても右は、措置法三三条の四第五項に規定する「書類の添付がなかつたことについてやむをえない事情がある」ときに当たる。したがつて、本件には措置法三三条の四の特例控除を認めるべきであり、これを認めなかつた本件処分は違法である。

5  仮に、右主張が認められないとしても、被控訴人と同一組織に属する仙台中税務署係官の前記行動を考慮すると、被控訴人の本件処分は、課税上の権利の濫用であり違法である。

二  被控訴人の主張

別添被控訴人の平成元年九月七日付準備書面(二)写のとおり。

第三証拠

原審及び当審記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断するが、その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  本件土地譲渡の経緯

いずれも成立に争いのない甲第六号証、第八号証、第二九号証(原本の存在も争いがない。)、第四一号証、第四五号証、乙第一ないし第四号証、第六号証(原本の存在も争いがない。)、第七、八号証、第一三号証、第一四号証の一、二、第一五号証、官署作成部分の成立につき争いがなく、その余の部分は弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一)  本件土地は、もと土井晩翠(本名林吉)の所有する土地の一部であり、晩翠は、昭和二四年以後右土地上に晩翠会が建築した晩翠草堂へ居住していたが、昭和二五年一月、晩翠会に対し、この敷地のうち東側一部を一〇年間無償で貸与する一方、同年一一月、仙台市に対し、その敷地の西側約半分に当たる四三九・六六平方メートルを贈与した。

(二)  仙台市は、昭和二六年一月、晩翠会から晩翠草堂の贈与を受け、これに伴い、その東側敷地部分についての使用貸借上の地位を承継した。

(三)  晩翠は、昭和二七年一〇月一九日、死亡し、土井亨(昭和四二年六月二九日死亡)、控訴人及び亀山利子が、相続により共同で本件土地の所有権を取得した。

(四)  社団法人仙台ユネスコ協会は、昭和三一年ころ、控訴人らから本件土地の北側一部を賃借し、翌三二年ころ、同部分に鉄筋コンクリート造地上三階地下一階の仙台ユネスコ会館を建築した。

(五)  控訴人らは、昭和四六年ころ、仙台地方裁判所に仙台市を被告として、本件土地上の晩翠草堂部分の収去とその敷地部分の明渡しを求める訴えを提起し、昭和四八年八月、控訴人ら勝訴の判決を得たが、仙台市の控訴に基づき、昭和五一年一二月八日、仙台高等裁判所により、控訴人ら敗訴の判決がなされ、そのころ、同判決は確定した。

(六)  控訴人らは、昭和五四年、仙台地方裁判所に、社団法人仙台ユネスコ協会を被告として、賃料増額を求める訴えを提起し、後にこれを土地明渡し等を求める訴えに変更する一方、昭和五六年一一月、同裁判所に仙台市を被告として、晩翠草堂が老朽化し土地を無償貸与する目的は終了したことを理由に同建物の本件土地上にある部分を収去してその敷地部分の明渡しを求める訴えを提起した。

(七)  この経緯を経て、控訴人らは、昭和五八年一〇月一三日、仙台地方裁判所において、仙台市との間で、控訴人らが仙台市に対し、本件土地を同裁判所が命じた鑑定人の鑑定評価額二億八五〇七万五〇〇〇円(昭和五八年一月一日の時点における更地としての評価額)により売り渡し、社団法人仙台ユネスコ協会に対する前記訴えをただちに取下げること等を内容とする和解(本件和解)をし、翌五九年一月一六日、右和解に基づき、仙台市との間で、本件土地の引渡し及び代金授受について合意し、そのころ、これを実行した。社団法人仙台ユネスコ協会は、同年三月二〇日、仙台市に対し、前記会館を寄付し、その旨所有権移転登記を経由した。

(八)  仙台市は、昭和六〇年一〇月一八日現在、晩翠草堂の敷地利用について、文学館の建設など種々検討を進めてはいるが、少くとも本件譲渡の当時、本件土地が所在する地域において、都市計画法の規定に基づき都市計画事業が施工されていた事実はなく、また、仙台市が、本件土地に関し都市公園法の規定に基づき都市公園とする旨の公告を行つた事実もなく、本件土地について、土地収用法に基づき仙台市がこれを買取るような事情は全くなかった。

2  本件譲渡と措置法の特例の適用

ところで、一般に、措置法の本件特例が適用されるためには、当該資産の処分が措置法三三条一項各号、三三条の二第一項各号又は三三条三項各号のいずれかに該当することが必要であり、本件土地譲渡についていえば、前記認定の事情に照らすと、その可能性が考えられるのは、措置法三三条一項二号及び同項三号の三の場合に限られる。しかしながら、本件譲渡が右事由に該当せず、本件特例の適用の余地のないことは、被控訴人の主張(別添準備書面(二)写記載)のとおりであつて、その適用をいう控訴人の主張は理由がない。

なお、控訴人は、本件和解に際し、仙台市の係官がその適用を前提として衡に当たり、所得税申告手続に当たつて必要な証明書を交付する旨約した等と主張するが、課税制度はその特例も含め、国民に等しく公正に実施されるべきものであるから、その根拠、要件は厳しく法令によつて規制されており、その性格上、みだりに拡張又は類推適用を認めることはできず、まして市職員の裁量によつて行えるものでないことは明らかである。

本件特例制度は、個人の所有する資産が土地収用法その他の法令に基づき強制的に収用され、又は収用を前提として買取りが行われる場合に、その補償金等の収入金額に対し、一般の売買による収入金額と同等に課税することの不合理を防止し、もつて収用等事業の円滑な遂行を助成しようとするものであるから、その適用を受ける事由は、本件の如き事業においては、措置法三三条一項各号に具体的に定められており、いずれも法律により強制的に資産を取得しうるような場合に限られ、単に土地の取得の目的が市の文化的、公益的目的にあるというだけでは足りない。本件和解の当時、本件土地に関し、土地収用法又は都市計画法の適用されるような具体的状況のなかつたことは前認定のとおりであるから、土地買取りの衡に当たつた市職員あるいは税務職員が内心どのように考えて行動したか、あるいはどのような発言をしたかによつて、本件特例の適用が左右されるいわれはなく、その発言等を云々して本件特例の適用をいう控訴人の主張はすべて採用できない。

一 よつて、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 川波利明 裁判官 近藤壽邦)

平成元年九月七日付準備書面(二)

第一 収用等による譲渡所得の課税特例制度の趣旨について

個人の所有する資産が公共又は公益のために必要とされる場合には、土地収用法その他の法令の規定に基づき強制的に収用され、又は、収用を前提として買取りが行われることがある。このような強制的手段による資産の収用も譲渡の形態の一つであり、その収用等により交付を受けた金銭(補償金)等は、その収用等のあつた日を含む年分の所得税の各種所得の収入金額に算入されることとなる。

しかし、このような強制的な譲渡又は強制力を背景とする買取りに伴つて生じた収入金額について、その全額を課税の対象とすることは、その譲渡が必ずしも個人の自由な意思に基づくものではないこと及びその課税により当該個人の従前と同様の生活維持又は生活保持のための再投資(代替資産の取得)を無視する結果となること等適当でない面があり、ひいては公益を目的とする収用等事業の円滑な遂行を阻害することともなる。収用等によつて資産を譲渡した場合に課税上の優遇措置が講ぜられているのは、かかる弊害を防止し、もつて収用等事業の円滑な遂行を助成する目的に出たものである。

右課税の優遇措置は、大別すると以下のとおりとなる。

一 譲渡所得又は山林所得の金額の計算につき、その収用等によつて譲渡した資産のうち、再投資によつて取得した代替資産の取得価額に相当する部分については譲渡がなかつたものとみなし、譲渡資産の取得価額と取得時期とを代替資産に引き継がせることにより、その課税を延期する繰延べの特例(租税特別措置法(以下「法」という。)三三条)

二 交換処分、換地処分等により代替資産を取得した場合には当該譲渡がなかつたものとみなす交換等の特例(法三三条の二)

三 各種所得から一律に三〇〇〇万円を控除する特別控除の特例(法三三条の四、以下「本件特例」という。)

なお、右一又は二と三の特例は、一定の要件に該当する場合にはそのいずれを適用するかは納税者の選択に委ねられている。

控訴人が本件において適用されると主張する特例は右三の本件特例である。

第二 本件特例が適用されるための要件――収用等の要件

本件特例が適用されるためには、まず、個人の所有する資産で次に掲げるものが次に掲げる場合に該当することが必要である。

一 資産が土地収用法等の規定に基づいて収用され、補償金を取得する場合(法三三条一項一号)

なお、土地収用法等とは、<1>土地収用法 <2>河川法 <3>都市計画法 <4>首都圏の近郊整備地帯及び都市開発区域の整備に関する法律 <5>近畿圏の近郊整備区域及び都市開発区域の整備及び開発に関する法律 <6>新住宅市街地開発法 <7>都市開発法 <8>新都市基盤整備法 <9>流通業務市街地の整備に関する法律 <10>水防法 <11>土地改良法 <12>森林法 <13>道路法 <14>住宅地区改良法 <15>測量法 <16>鉱業法 <17>採石法 <18>日本国とアメリカ合衆国との相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本におけるアメリカ合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置をいう。

二 買取りの申出を拒むときは土地収用法等(その具体的法令は前記一と同じ)の規定に基づいて収用されることとなる場合に、その資産が買い取られて対価を取得するとき(同項二号)

三 土地等について土地区画整理事業、住宅街区整備事業、土地整理事業又は土地改良事業が施工され、その土地等について行われる換地処分により精算金を取得するとき(同項三号)

四 資産について第一種市街地再開発事業が施工され、その資産に係る権利変換により補償金を取得するとき(同号の二)

五 土地等が都市計画法の規定に基づき買い取られ、対価を取得する場合(同号の三)

六 土地区画整理法による減価償却補償金を交付すべきこととなる土地区画整理事業が施工される場合において、公共施設用地に充てるべきものとして土地等が買い取られ、対価を取得するとき(同号の四)

七 国、地方公共団体、住宅・都市整備公団又は地方住宅供給公社が一定の目的で行う五〇戸以上の団地の住宅経営のために土地等が買い取られ、対価を取得するとき(同号の五)

八 土地等が農地法の規定に基づいて買収され、対価を取得するとき(同項四号)

九 保安林整備臨時措置法の規定に基づき、保安林又は森林等が買い取られ、又は、強制買収されて対価又は補償金を取得するとき(同項五号)

一〇 資産が土地収用法等の規定に基づいて収用された場合に消滅した資産以外の権利につき補償金を取得する場合(同項六号)

一一 資産に関する権利で都市再開発法に規定する権利変換することのないものの消滅に対して補償金を取得する場合(同号の二)

一二 公有水面埋立法の規定に基づく事業の施工に伴つて消滅する漁業権、入漁権等につき補償金又は対価を取得するとき(同項七号)

一三 国又は地方公共団体が次に掲げる法令に基づいて行う処分に伴い資産の買取り若しくは消滅に対し又は買取により補償金又は対価を取得するとき(同項八号)

<1>建築基準法 <2>漁業法 <3>港湾法 <4>鉱業法 <5>海岸法 <6>水道法 <7>電気通信事業法

一四 土地等が土地収用法の規定に基づいて使用され、補償金を取得するときで、右使用させることが譲渡所得の基因となる不動産等の貸付けに該当するとき(同条三項一号)

一五 土地等が前記一から四まで又は一四に該当することとなつた場合又は特定の事業の施工に伴い、土地上にある資産につき収用、取壊し若しくは除去しなければならなくなつた場合又は一三の処分に伴つて土地上にある資産の除去等をしなければならなくなつた場合で一定の要件の下に対価又は補償金を取得するとき(同項二号)

一六 資産に付き、土地収用法等の規定による収用があつた場合において、当該資産と同種の資産を取得するとき(法三三条の二第一項一号)

一七 土地等につき土地改良法等による事業が施工された場合において当該土地等に係る交換により土地等を取得したとき(同項二号)

一八 特定の保安林又は森林等が国有林野と交換された場合に当該森林等に換えて他の森林を取得するとき(同項三号)

なお、以上の特例該当事由は、制度趣旨から限定列挙と解すべきものであり、これらいずれかの条項に該当しないものについて拡張解釈又は類推解釈が許されないことはいうまでもない。

三 控訴人の本件譲渡と前記特例事由の該当性について

次に、控訴人の本件譲渡が前記各特例事由に該当するか否かを検討する。

本件土地の権利関係、地目、利用状況、所在地及び譲渡の目的・態様等からすると、前記一ないし一八のうち、本件譲渡につき該当可能性のある事由は、二及び五のみであり、該当可能性のある根拠法令は土地収用法及び都市計画法に限られる。

そこで、以下、右各法律ごとに具体的検討を加える。

一 土地収用法の該当性について(前記第二の二の事由)

土地収用法三条は、土地収用を行うことのできる事業及び根拠法令を限定列挙しているが、前記本件土地の権利関係、利用状況、譲渡の目的等からすると、関連する事業の根拠法令は以下のものに限られる。

1 同条二一号 学校教育法一条に規定する学校又はこれに準ずるその他の教育若しくは学術研究のための施設

2 同条二二号 社会教育法による公民館若しくは博物館図書館法による図書館

3 同条三二号 国又は地方公共団体が設置する公園、緑地、広場、運動場、墓地、市場その他公共の用に供する施設

控訴人は、本件土地譲渡が右1ないし3のいずれかに該当する事業に関するものに当たると主張するもののようであるが、注意すべきは、土地収用法の規定の適用があるのは、原則として、事業が前記各条項に該当するのみで足りず、実際にその事業が「土地を収用し、又は使用する公益上の必要があるものであること」(同法二〇条四号)等について、建設大臣又は都道府県知事の事業認定を受けることが必要であるという点である。つまり、同法三条各号のいずれかに該当する場合であつても、実際に当該事業が法定の事業認定を受けない限り、土地収用法に基づく収用はもちろん、収用を前提とする買取りには該当しない。

これを本件についてみるに、本件譲渡前はもとより、譲渡後においても、前記事由に該当するものに関する事業認定はなされていない。

もつとも、例外的に、事業認定がなされていない場合であつても収用等特例の適用を受けられる場合があり(租税特別措置法施行規則一四条七項三号以下及び同項一、二号を参照)、本件譲渡の目的及び本件土地面積との関連でこれを検討すると、土地収用法三条各号のうち、本件譲渡がこれに該当する可能性を持つものは、以下のとおりである(同規則一四条七項三号イ)。

二一号につき、地方公共団体の設置に係る小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校、養護学校及び幼稚園

三二号につき、都市公園法二条一項に規定する都市公園に係る部分

しかしながら、二一号の該当性については、本件土地譲渡の目的が前記各種学校の建設のためでないことは明らかであり、三二号の該当性についても、都市公園とは、都市計画法五条に規定された都市計画区域の中において、地方公共団体が設置する公園若しくは緑地又は都市計画施設である公園若しくは緑地で地方公共団体が設置するもので地方公共団体が当該公園又は緑地に設ける公園施設を営むものとされている(都市公園法二条一項)ところ、本件土地及び地上建物は、仙台市が設置する公園若しくは緑地又はその施設に該当しない。

以上のとおり、本件譲渡は土地収用法の規定に該当せず、同法に基づく収用を前提とする買取りには当たらない。

二 都市計画法の該当性について(前記第二の二及び五の事由)

都市計画法に基づく収用又は買取りは、都市計画施設の整備に関する事業又は市街地開発事業等の用に供するための資産の取得手段である。前記第二の二又は五の事由に該当するためには、本件譲渡が都市計画に定められた都市施設たとえば、都市計画法一一条一項二号の公園、緑地、広場、墓園その他の公共施設、同項五号の学校、図書館、研究施設その他の教育文化施設として都市計画に定められ、その整備に関する事業のために取得されたことが必要である。

しかしながら、本件譲渡については、都市計画事業の認可若しくは承認(同法五九条、七〇条)はなされておらず、仙台市の本件土地の取得は都市施設の整備に関する事業としてなされたものではないから、結局本件特例の適用はない。

三 以上のとおり、本件譲渡は土地収用法及び都市計画法のいずれにも該当せず、強制的な収用又はこれを前提とした買取りには当たらないものというほかない。

かえつて、仙台市と控訴人との紛争の経過及び本件譲渡を約した訴訟上の和解の経緯に照らすと、本件譲渡はあくまでも両者間の任意の合意に基づくものというべきであり、収用等強制的取得を前提としたものでなかつたことは明白である。

よつて、本件譲渡については特例適用の要件を欠くことが明らかであり、その余の点につき判断するまでもなく控訴人の主張は理由がない。

第四 本件特例を受けるための要件――期間制限(法三三条の四第三項)

本件特例は、法三三条一項各号に該当する場合であつても、公共事業施工者による当該買取り等の申出があつた日から六か月を経過した日までに当該資産を譲渡しない場合には適用しないこととされている(法三三条の四第三項一号)。これは、公共事業における土地等の取得において、ゴネ得を防止し、結果的に事業の円滑な遂行を阻んだ者については、課税上の優遇措置を与えない趣旨に出たものである。

ところで、本件譲渡に至る経過によれば、控訴人は長期間仙台市との抗争を続けていたのであり、買取り等の申出から六か月以内に譲渡が行われたものとは到底解し難い。

よつて、本件譲渡は右要件をも欠き、本件特例の適用はないものである。

第五 確定申告に際しての要件――添付書類の必要性

本件譲渡につき、本件特例の適用を受けるためには、確定申告書に法三三条の四の規定の適用を受ける旨の記載をし、かつ、公共事業施工者から交付を受けた買取り等の申出があつたことを証する書類その他同法施行規則一四条七項各号に規定する書類をこれに添付しなければならないところ、控訴人は、右必要書類を確定申告書に添付しなかつた。

よつて、手続の面からみても、本件譲渡について、本件特例の適用はない。

第六 結語

以上のとおり、本件譲渡は前記の各要件をいずれも欠くもので本件譲渡につき本件特例の適用される余地はないから、本件更正処分は適法であり、控訴人の本件控訴は速やかに棄却されるべきである。

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